芭蕉の場所を追いかけて 近江編

行く夏を近江の海に惜しみける

 芭蕉に縁の深い土地は数多くある。生誕の地・伊賀上野はもちろんのこと、長らく俳諧生活の拠点とした江戸深川しかり。旅で訪れた全国各地のゆかりの地は数え切れないほどあるだろう。それでもあえて言ってしまおう。芭蕉が最も親しみを持ち、執着した土地は、大津だ!

 元禄七年(1694年)10月12日、芭蕉は大坂南御堂、花屋仁右衛門宅で息をひきとる。亡くなる際、「骸(から)は木曽塚に送るべし」と遺言していた。木曽塚とは、大津膳所の義仲寺にある、木曽(源)義仲公の墓所である。12日当夜、十人の門人達が骸を淀川の船に乗せ、京・伏見まで運ぶ。翌13日伏見を出発し、義仲寺に遺骸を運び入れた。驚くべき迅速な処置である。門人十人中、五人は大津の人であったと言う。14日の葬儀では、会葬者300人に及んだという。
 「伊賀上野」の稿で触れたが、生地伊賀上野には「故郷塚」の建つ松尾家の菩提寺、愛染院がある。わざわざ「故郷塚」を建てるということは、本来の墓所が別にあるということに他ならない。上野の人たちの無念さ、想像に難くないところである。芭蕉は生まれ故郷伊賀上野とのしがらみを捨ててまで、大津での永眠を望んだ。それほど、彼にとって大津という地は格別の存在であったらしい。

 特に晩年になってから、芭蕉は大津に何度も長逗留している。義仲寺の無名庵、国分山の幻住庵など、よほど居心地がよかったのか、長い間滞在している。元禄三年(1690年)には、「幻住庵記」を完成させている。
 気心の知れた大勢の門人達に囲まれ、芭蕉はすっかり大津が気に入ってしまう。そして、芭蕉が大津を気に入った最大の要因は、琵琶湖の存在ではないだろうか。海のない奈良に住む私は、近江の人をうらやましく思う。近江にも海はないが、琵琶湖がある。どこまで行ってもたっぷりと広がる琵琶湖は、海よりも素敵だと思う。
 芭蕉のころはもっともっと美しい湖だったろうし、義仲寺も琵琶湖に面する景勝の地だったらしい。山に囲まれた伊賀上野に閉じこめられてしまうより、琵琶湖の前で眠りたかったのだと思う。

旧東海道を行く。
義仲寺(ぎちゅうじ)到着です。
義仲寺境内。
芭蕉翁の墓です。
すぐ横に木曽義仲公の墓があります。
芭蕉は義仲公の横で眠ることを望みました。
翁堂。
 芭蕉句碑

〜古池や蛙飛び込む水の音〜
伊勢の門人、又玄(ゆうげん)の句

〜木曽殿と背中合わせの寒さかな〜
芭蕉が何度も滞在した無名庵。
芭蕉の葉が古井戸を覆います。
芭蕉句碑

〜行く春を近江の人と惜しみけり〜
芭蕉句碑

〜旅に病んで夢は枯れ野をかけ廻る〜
義仲寺を出て、琵琶湖岸に来ました。
近江大橋です。あいにくのお天気。
ほんとに海のようですね。
膳所城址に来ました。
芭蕉句碑

〜湖や暑さを惜しむ雲の峰〜

こんなすばらしいロケーションの句碑も珍しい。
と言うことです。
どんどん南に向かいます。
近江八景のひとつ、粟津の晴嵐です。
500本を超える松並木が、晴れた風の強い日、嵐のように枝葉がざわめいたそうです。
瀬田の唐橋が見えてきました。
瀬田の唐橋。
芭蕉の句に

〜五月雨に隠れぬものや瀬田の橋〜
があります。
瀬田川を南下。
石山寺到着。西国三十三ヶ所巡りをしているときに、一度来ました。
そろそろ紅葉かなあ?
珪灰石です。石山寺の名の起こりとなったものです。
上に多宝塔が見えています。
本堂参拝。
紫式部さまが源氏物語を執筆された、「源氏の間」です。以前来たときは、こんな網はなかったように思うのですが。
芭蕉句碑。珍しい円柱形です。

〜曙はまだ紫にほととぎす〜
有名な多宝塔。
月見亭です。
月見亭からの眺め。
石山寺を出て、のんびりと田舎道を幻住庵へ向かいます。
幻住庵到着。
芭蕉句碑

〜まず頼む椎の木もあり夏木立〜
幻住庵の山門です。
元禄三年、ここに長らく滞在し、「幻住庵記」を著しました。
幻住庵の内部。最近再建された建物です。
再建された幻住庵です。
句碑のはめ込まれた道灯が並んでいます。
すぐ近くの近津尾神社。と言うより、この神社の境内に幻住庵が建てられたようです。
幻住庵を出ます。名神高速道路を見下ろす。
また琵琶湖にもどってきました。
ビアンカ号
ミシガン号も停留しています。
三井寺の近く、円満院門跡に来ました。
芭蕉句碑

〜大津絵の筆のはじめは何仏〜
三井寺(園城寺)到着です。
ここも三十三ヶ所巡りの時に来ました。
有名な三井の晩鐘。
ええ音してます。

ごゎぁ〜〜んんんんん・・・・・
金堂は大修理中でした。
金堂前に芭蕉句碑。莫山先生揮毫です。

〜三井寺の門たたかばや今日の月〜
大修理中金堂の内部です。
弁慶の引摺り鐘。
鐘の横に、弁慶の汁鍋。
三重塔です。
観音堂まで来ました。
観音堂から琵琶湖を眺める。
建物が増えてしまい、絶景とはいきません。
京阪三井寺駅通過。
このあたりは路面電車になっています。
浜大津駅。
京都へ向かう京阪京津線。
大津の旅も終わりです。