佐保川
万葉歌碑を探して遠くまで行き、鎮守の森の片隅などでやっと見つけた時はうれしいものである。逆にこの佐保川遊歩道のように、あまりにも歌碑を濫造されると有り難みが薄れるような気がする。ほとんどの歌碑が、坂上郎女の歌を揮毫している。郎女は、大伴家持の父旅人の妹。ここ佐保川沿いに住み、千鳥が飛び河鹿が鳴く川沿いの道をそぞろ歩いていた。例によって恋多き女性であるが、中でも藤原四兄弟の末っ子、藤原麻呂と浮き名を流した。
千鳥鳴く 佐保の川門の 瀬を広み打橋渡す 汝が来と思へば (坂上郎女 4−528)
打ち上ぐる 佐保の川原の 青柳は今は春へと なりにけるかも (坂上郎女 8−1433)
千鳥鳴く 佐保の川瀬の さざれ波 やむ時もなし 吾が恋ふらくは (坂上郎女 4−526)
新大宮駅の北側から舟橋通り北まで、約1.5qの佐保川遊歩道を歩く。春には両岸の桜が一斉に咲き乱れ、それはそれは見事な眺めである。今は散歩する人もめったに見かけない。水は汚れ、千鳥の鳴く風情は望むべくもないが、桜や柳の青葉が川面にしなだれかかり、小道の向こうから坂上郎女が物思いにふけりながら歩いてくるかもしれない。それにしても恋多き郎女のお姿を、一目拝見してみたいものである。 佐保川を詠んだ歌は本当に多い。
春の佐保川