額田部

          さ額田の 野辺の秋萩 時なれば 今盛りなり 折りてかざさむ
                                   (不詳 10−2106)

 

 額田部は、額田王が生まれたところではないかと言われている。額田の野辺で萩の花が満開である。ひと枝折って、頭にかざしてみようかな。軽い遊び心をさわやかに歌う。
 
 残念ながら、現在は額田の野辺と言われたような風情はほとんどない。近くを幹線道路が走り、工業団地が建ち並ぶ。すぐ南側には大和川が流れるが、対岸には浄化センターの大きな建物が見える。
 
 当時を想起させる唯一の建造物は、額安寺というお寺である。聖徳太子ゆかりの由緒ある寺だが、長い間廃寺寸前の姿で放置されてきたらしい。数年前に訪れたときは、本堂の瓦も崩れ落ち、建物全体も傾いていたような記憶がある。今日来てみると、資金のあてができたのか、修復工事をしていた。伝統ある寺院の復興を望みたい。
 
 幹線道路から一歩入った道は、鎌倉街道と呼ばれる古道で、近世の下街道に通じていたらしい。お伊勢参りの灯籠も建ち、しっとりと落ち着いた雰囲気の道だ。この地ゆかりの額田王が歩いてきたような気がした。

鎌倉街道