西の市
西の市に ただ独り出て 目並べず 買ひてし絹の 商(あき)じこりかも (不詳 7−1264)
奈良市からわずかに大和郡山市に入ったところに、「平城京西市跡」がある。周辺はマンションやスーパーが建ち並び、車もどんどん通りゆっくり見学していられない。周辺にそれらしい風情がないためなのか、石碑の類がものすごく充実している。万葉歌碑以外に、「西市灯籠」の復元、唐の都長安(今の西安)から友好のためにやってきたと称する狛犬などが並ぶ。真横が石材屋さんなので、そこで製作しているのかもしれない。
犬養先生揮毫の歌碑は堂々としている。このあたりに平城京の西の市があり、古代律令国家の交易の拠点だった。前に大きなスーパーがあるのは、その名残であろうか。
たった一人で絹を買いに来た作者は、素人ゆえに買物に失敗したらしい。ぼったくりにあったのか、粗悪品をつかまされたのか。当時の庶民生活を知る上で、興味深い一首だと思う。