奈良山


  
君に恋ひ いたもすべなみ 奈良山の 小松がもとに 立ち嘆くかも   (笠郎女 4−593)

笠郎女は29首の歌を詠み、すべてを大伴家持に贈っている。しかし家持は冷淡な内容の歌を2首返しただけらしい。
 「家持さまのことを考えるとじっとしていられなくて、奈良山を登ってきましたの。悲しくてつらくて、松の木の下で泣いています。」 などという歌をもらっておきながら、きわめて冷淡な態度を取っている。家持は本当にもてたらしくて、10名以上の女性と熱い歌のやりとりをしたらしい。
 奈良山は小高い丘だが、それでも登り続けると息が切れている。一条通りから奈良高校へ向かう急坂を登ったところに、狭岡(さおか)神社がある。奈良山の中腹ではあるが、奈良の市街地を見下ろせる。周囲には学校も多く、閑静な文教地区になっている。
 すぐ下の佐保川沿いに住む家持のことを思いながら、松の木の下で泣きくれる郎女のことを考えてみる。

狭岡神社

593番歌碑