奈良の大路

君が行く 道の長手を 繰り畳み 焼き滅ぼさむ 天(あめ)の火もがも (狭野茅上娘子 15−3724)

青丹よし 奈良の大路は 行き良けど この山道は 行き悪しかりけり  (中臣宅守 15−3728)


復元された朱雀大路

万葉集には、この二人の贈答歌が63首も入っている。当時としてはかなり有名なスキャンダルだったのかもしれない。
 中臣宅守は、天皇に仕える女官である狭野茅上娘子と恋仲になり、越前に左遷された。3724番は、その時娘子が宅守に贈った歌。あなたが行く道を焼き滅ぼしてしまえという激情に、唖然とするしかない。有名な歌でファンも多いらしいが、過激だなあ。
 それに引き替え、宅守の返歌3728番は実にたんたんとしている。娘子の激情をあとにして越前へと向かう。平城京の整備された道に較べると、山道は険しいのだ。
 「奈良の大路」がどの道を指すのかはわからないが、奈良盆地には私の好きな古道がたくさん残っている。古道をとぼとぼと歩いていると、向こうから宅守が傷心の面持ちで歩いて来るような気がする。

鎌倉街道(額田部)

一条大路(笹鉾町)