黒 髪 山

ぬばたまの 黒髪山の 山草に 小雨降りしき しくしく思ほゆ     (柿本人麻呂 11−2456)

古代の歌枕、黒髪山は現在見るも無惨な姿になっている。ドリームランド、キャンプ場、ゴルフ練習場などが山を好き勝手に寸断している。戦後すぐは、ここに進駐軍のレクレーション施設があったそうである。
 昔の風情を求めて、黒髪山神社まで上がってきたが、ドリームランドから軽やかな音楽と子供の歓声が間近に聞こえてくる。しかし周囲は雑木林に囲まれ、少しは風情も感じることが出来る。


歌碑ならぬ、歌看板に人麻呂の歌。このような手作りの「歌碑」も珍しい。残念ながら、しっとりと濡れる黒髪という色っぽさを感じることはできない。雨でも降らないかなあ。
すぐ近くに黒髪橋があり、橋の上から北に南に見晴らしは最高である。



平城山の全景を見るのに最高の場所であろう。実はこの場所、明治時代に大仏鉄道という幻の鉄道が走っており、黒髪山トンネルが掘られていた。トンネルだけは戦後昭和38年頃まで残っていたが、廃棄され、切り通しの道となって、上に橋が架けられた。100年前の鉄道にロマンを感じるが、この鉄道も黒髪山破壊の張本人であるとも言える。

 黒髪橋からドリームランドの方へ戻ったところに奈良市の主要なスポーツ施設が集まる鴻池地区がある。若草国体のメイン会場となった陸上競技場の近くに、「万葉苑」という場所がある。万葉植物園になっており、歌に詠まれた植物が所狭しと植えられている。その一画に人麻呂の歌碑があった。このあたりも昔の黒髪山の一部であろう。
木陰に吹く風が涼しい。時折、苦悶の表情の高校生がランニングしている。