粉浜

   住吉(すみのえ)の 粉浜の蜆 開けも見ず 隠りてのみや 恋ひ渡りなむ
                                     (不詳 6−997)

南海高野線帝塚山駅下車。帝塚山古墳を見て、西へ坂を下る。このあたり上町台地の西縁で、古代は海岸線になっていた。阪堺線のチンチン電車が走る道あたりが、浜辺の道だったそうだ。海のない大和から難波へ来た人々は、この道を通り住吉社へ参った。白砂青松の住吉の浜を見ただろう。
 
まもなく南海線粉浜駅前に至る。粉浜のしじみを詠んだ歌があり、駅前に犬養先生揮毫の歌碑がある。典型的な大阪の下町の駅前風景。買物客が行き交い、自転車が通行を妨げる。
 
住吉の粉浜のしじみのように、殻に閉じこもったままで思いを打ち明けることもなく、恋し続けるのだろうか。何と奥ゆかしい歌であることか。あけすけな雰囲気の商店街とは対照的な世界だ。現在の繁華な商店街に、古代から賑わっていた住吉界隈の姿を重ねる。

阪堺電車

粉浜商店街