率川(いさがわ)
葉根かづら 今する妹を うら若み いざ率川の 音の清けさ (不詳 7−1112)
率川神社を訪れる。笹ゆり祭で有名な古社。境内は広く玉砂利も美しいが、表通りに面してしまっており、ひっきりなしに車の騒音が聞こえる。歌の面影はないが、チョロチョロという手水場の水の音がそれに聞こえてきた。率川の清かな音に触発されて、娘さんを誘いたくなったという歌である。何とうらやましい時代であろうか。
率川神社
歌碑
私も川の音を聞きたくなり、神社を離れる。現在の率川はほとんど暗渠になってしまっているが、猿沢池の横でわずかにお目にかかることができる。船に見立てた台に、多くの地蔵さんが祭られている。川の改修の際に掘り出された石仏を祀っている。女性を誘いたくなった清流は見る影もなく、コンクリートブロックで護岸化されたドブ川となっている。目と鼻の先の猿沢池は、奈良の代表的な観光スポットであり、五重塔や南円堂をバックに池の水や柳の緑が美しい。率川には見向きもせず、池を望んでアベックが語り合う。